a day in the gatela

主に趣味のギターにまつわる内容を書いています。コメントや質問等、お気軽にどうぞ。

大阪

 あれから3日間ほど、俺は変わらずギターを弾いたり夜遊びに
出掛けたり普段通り過ごしていた。その間、勿論太郎とも会っていたが、
特に大阪行きの話は出ること無く、なんとなくあれはなかった事になって
いるのだろうという思いも有った。


 土曜日の午前の授業が終わり、家に帰ろうとした時に太郎が教室の前で
立っていた。
「準君、お疲れ。今から時間ある?」
「ああ、いいよ。じゃ、太郎ん家に行こうか?」
「オッケ。」
歩きながら太郎は嬉しそうに言った。
「実はさ、大阪の話なんだけど。俺、計画経てたじゃんね。」
「マジでか!いつ行くの。」
「ん、でさ。準君も行くと思って、詳しく話すからさ。」
いつもより早い足取りで太郎の家に行った。


「でさ、準君。俺が今やったのはホテルの予約なんだけど。」
「ホテル?で?」
「それが、今度の土曜じゃんね。で、行き方は金が出来れば新幹線もいいし、
 ムリなら近鉄でも良い。それと、向こうで探す学校もまだ決めてない。」
「要するに、来週のホテルの予約を取ったってことね。」
「ああ、そんだけ。」
「じゃ、ドンドン決めてくぞ。行き帰りは新幹線で決定しよう。出来るだけ
 時間一杯使いたいしここでケチったらなんか後で後悔しそうだし。」
「なら、行き先は?」
「じゃ、次ね。専門学校のパンフレット探しに行くぞ。学校の事が沢山載っ
 てるヤツ。その中から目についた学校に電話して、土曜日の見学が出来る
 か確認する。」
「じゃ、そのパンフレットってやつ、探しに行こか。」
「ああ、なら俺一回家に戻って着替えてくるわ。後で本屋ね。」
唯単に遠くへ行きたい、という思いばかりが先走り、なぜ大阪か?というこ
とには目を瞑っていた。


「あのさぁ、来週の週末に大阪行ってくるわ。」
「なに?誰と?どうやって?どこ泊まるの?」
チャーハンを作りながら母は一度に聴いてきた。
「えと、太郎と大阪に新幹線で行って、泊まるとこは味気ないビジネスホテル」
「じゃ、ご飯用意せんでいいね?」
「おお。いらん。」
「で、ナニしに行くん?」
「学校探しに。音楽できるとこ、、。」
「フーン。」
大盛りのチャーハンが俺も前に出てきた。俺は一気にかっ喰らい再び太郎の家
に向かった。


「何食った?」
「あ、チャーハンだけど。」
「マジで?俺も!」
「土曜の昼なんてチャーハンかラーメンくらいしかねぇよ。」
そんな会話をしながら鈴村書店に行く。

 
 鈴村書店はレコードショップの近くに有り、何度も通っている本屋だ。俺達は
専門学校というコーナーに始めて入った。
「なんかさ、いつも雑誌のトコしか見てないからナニがどこにあんのか解んねえ
 な。」
「ああ、つかさ、時間まだ有るし今月の新刊見に行こか?」
「いいね、ホッとするよ。」
俺の提案にあっさりのっかった太郎は、やはり足取り早く音楽の雑誌コーナーに向
かった。俺はギターマガジンやプレイヤーをパラパラめくって、見つけた記事は広
告のページだった。

「おい太郎、大阪の学校の記事あんぞ。」
「まじで?どこ? おお、東京校と大阪校。ここでいいじゃん!」
「ここでいっか。」
「オサム!」
オサムと太郎が叫んだ理由は、この学校の名前を略したものだった。
「オサム、で決定!」

 
 大阪に訪れた中学三年生男子2名。あれから20年。怖いモノで流石に記憶が薄れと
る。まぁいい。続けよう。
 大阪駅を出て少し迷いながらオサムに行った。学校には音楽科、商業デザイン科、
など要は複合型だった。あらかじめ電話で確認しておいた時に対応してくれた先生が
校舎の中を歩きながら話した。
「ここは音楽を勉強するのに必要な物は全部有るよ。」
そう言いながら、ライブスペース、練習スタジオ、録音スタジオ、教室、コンソール
が置かれたミキシングの教室。もちろん各楽器に対応した個人で使えるスタジオもあ
った。
「どう?案外いろいろあって刺激になるでしょ。ここを卒業してプロとして活躍して
 る人も沢山居るよ。あと、問題は、、、。君たちがまだ中学生ってとこだね。」
 そう、俺達は学校を探すと言いながら、専門学校を調べてしまった為に、高卒対象
の学校を3年先取りして見学に来ているのだった。


 夜はホテルにチェックインしてすぐ風呂に入った。ビールを1杯ずつ飲み俺達は夜遅
くまで話してた。多分、内容はお互いが風呂に入っている間に見たホテルのエロビデオ
についてだったと思う。


 朝になってホテルの朝食をすませると、今日は早めに帰ろうというお互いの折り合い
で自然と大阪駅に向かった。途中、線路を渡る橋の上で太郎がポケットから卵を出した。
「俺、食わなかったんだよね。」
「なんで持ってきたん?」
「なんとなく、なんだけど。やっぱイラネ!」
ヤツは橋の下の線路、向こうから走ってきた電車に向かって投げつけた。
見事、卵は運転席に命中し、どうなったのかは足下の橋の下に潜ってしまったので見えな
いが、割れた瞬間は見えた。あれは生卵だと。
「うっわー。見た?準君。あれ生卵じゃん。ワイパー使うと見えなくなるけど大丈夫かな?」
「、、。急ぐぞ!」
こうなったら早く帰っちまおう。俺達の町へ。